Innovation by Consensus
コンセプト/innovation by consensus
“豊かさはコンセンサスの喪失を招きます。
ゆえに、これからのイノベーションの鍵は
コンセンサスにあります。
すなわち、
ヴィジョン、共通目標の共有です。”
“Richness makes a loss of consensus.
Therefore, the key to future innovation is consensus.”
豊かさが行き過ぎた現状肯定(という滅び)を招く
社会が豊かになると、生きるために必死になることが減り、考える余裕も出たりするので、お茶の間とかゴールデンタイムという概念が失われ、個々人で考えるようになることが増えたり、反対に個人に考えるプレッシャーがなくなったりして、私達の社会の一体どこに向かうのかというコンセンサスが失われていきます。
社会に限らず企業でも同じです。
成長し一流と呼ばれるようになった企業でも、未来に向けたコンセンサスが失われると現状に拘泥して滅びます。
卓越したアイデアがあっても個に閉じこもっているとそれ以上拡がることなく、潰えてしまいます。イノベーションは日本語訳で技術革新ですが、この訳は正しくなく、本来は”新しい技術や発想の社会実装”が正しい意味です。
デモクラシーや資本主義を行き詰まりが指摘される21世紀初頭ですが、これは豊かさがもたらした副産物です。
この行き詰まりを乗り越えるためには必要なものとして挙げられるのはイノベーションですが、イノベーションが実現するには社会的なコンセンサスが必要です。たとえば老後への不安から現状を固持しようとする感情があることは意識調査から推察されていますが、日本国民の持つ預金や株式、保険などを合わせた資産は1750兆円(2016年末時点)存在します。
(*追記、2019年には1835兆円に増加しています。)
1億2700万人の人口一人あたりでは約1370万円。この資産額を大金と見るかどうかはともかく、少なくとも人生に行き詰まりを感じるような額ではありません。
莫大な富がありながら、社会全体で上手く運用し効果的に分かち合うことが上手くできていないのが現代の私達です。その背景には、互いに共有するコンセンサスが弱いために富に分かち合うことに必要な信頼が確固としたものになっていない状況があると考えられます。
コンセンサスの効用
コンセンサスがある社会/コミュニティとはどんなものでしょうか?
一つの例は「航空業界」です。
最新の統計(IATA(国際航空運送協会)2015)では1年間に飛行機を使う延べ人数は35億人、フライト数は3,780万回。人数もフライト数も増加傾向にありますが、死亡事故は4件(死者は136名)でした。単純な計算で死者が発生するほどの事故は945万飛行機に乗ってに1回です。
この極めて安全性は、これまでの飛行機事故の背景にある失敗を積み重ねない仕組みを各企業、業界が導入してきたからです。
失敗のひとつには、1978年12月に起きたユナイテッド航空173便の事故があります。
この事故では、着陸の際のランディングギアのトラブルに気を取られ過ぎたため燃料切れに気づかずに墜落し10名が死亡しました。
事故の背景には機長の思い込みと、乗務員間の上下関係から機長が他の乗務員の意見を軽視する職場環境によって思い込みが解消されないコミュニケーションの欠陥がありました。 この事故以降、人間同士の意思疎通、信頼の重要さが見直され Crew Resource Management(CRM)という訓練体系が導入されています。また航空機の事故が起きた場合には、第三者による調査が長大な時間とお金を用いて行われます。調査結果は一般公開されることが原則であり、これを民事訴訟で証拠として採用とすることは法律で禁止されています。理由は関係者が証言を躊躇しないようにするためです。
こうした仕組みによって、ひとつの事故での教訓、何かで失敗したらその経験、情報を共有して、同じ失敗を繰り返さないことが航空業界全体で目指されています。
そこには、”乗客を安全に運ぶ”ためにベストを尽くすというコンセンサス/共通目標があり、極めて高い安全性を支えています。
コンセンサスは自然にはできない
共通目標たるコンセンサスとその仕組みが、卓越した成果を導きます。
しかし、自然に湧いてくるものではありません。では、コンセンサスはどうつくればいいか?どう運営すればいいか?という疑問が湧きます。
それに応えるのは”社会に繋がるコミュニケーションデザイン”の導入です。
企業や組織ならば自社の事業が社会にどのような要請に応えているか、今後どのような選択肢があるかを分析、考察しステークホルダーに示してフィードバックを得ることで経営の推進力にすることができます。
国家ならばその時々の社会課題が何であるか、社会を支える理念から見てどうあるべきか、そして課題を乗り越えるどのような選択肢があるかを、統計データや技術動向を踏まえて纏め上げ、国民に対して示しフィードバックを得ることで社会運営の精度を高めることができます。
しかし、多くの企業ではここ迄の取り組みを行えていません。特に日本企業の多くは世界とどう関わり、どのように世界をより良くするかというシナリオを持てないことが競争力低下の一因担っています。また国家においても代議制民主主義と公務員任せの社会運営は限界を迎えています。企業も国家も旧いOS(オペレーティング・システム)で今日も動いているのです。
企業の企業統治や会計の手法には長い歴史の積み重ねがあり、国家においても三権分立や法による統治、国民主権はまさに大きなイノベーションでした。
あらゆる仕事も生活も、そして個人も社会とつながっています。ですが、そのつながりを忘れ内向きにしてしまう力も消えることはありません。ゆえにコンセンサスを見出し常にアップデートできる仕組みは、明確な意思と知力によってのみ実現できます。コンセンサスは絶対的なものではありません、世界の変化に応じて微修正を繰り返します。
ダメになる会社や社会(地域や国家)は自分たちが何のために働いているか、存在しているかという思考が内向きになり、狭い選択肢しか考えられなくなって自滅の道を選んでしまうのです。
マーケティングでもコンセンサスは重要です。
ただ売るだけでは価格競争とコモディティ化によって市場に勢いがなくなりデフレ現象を生じさせます。モノやサービスの送り手と受け手の間に共通目標たるコンセンサスがなければ信頼関係が生まれず、豊穣な市場を育むことはもちろん維持することもできません。
もし、鮮魚業界に”世界の魚を持続的に美味しく大切に味わう”というコンセンサスがあれば、成長途上の魚を乱獲することも、知名度が低いという理由で魚に値が付かないこともなくなります。
目の前の稼ぎに没頭し、目の前の安さにとらわれることで、魚の市場そのものが成り立たなくなる危機を招いています。
『世界に足らないもの』のために
世界に足らないのはイノベーションを実現するための信頼とコンセンサスです。そして、コンセンサスを定期的に検証する仕組みです。資本主義はこの150年間よく発達してきましたが、企業、社会、市場において俯瞰視点からゲーム理論における協力ゲーム(cooperative game)を考え参加者に共有し信頼を促す機能は重視されてきませんでした。
この足らないものを補う方法を考え、創り、実装するため手段/meanとしてハンマーバードはをはじめました。